人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
「ううん、違うの。何でもないわ。ちなみにどういう話なの?」
「ネタバレしてもいいんですか? いいですよね? じゃあ話しますね」
リアは嬉々として本の内容を語る。
主役のふたりは王族(男)と平民(女)という設定だった。
ふたりは禁じられた愛を育んだ末に結ばれるが、なんと皇帝に処刑されてしまう。
ふたりは死ぬときまで一緒だったと美しいラストで締めくくられているのだ。
「うん、聞くんじゃなかったわ」
イレーナは複雑な表情で嘆息する。
「え? 結構感動するってみんな言ってるんですけど」
「感動どころか恐怖でしかないわ」
だが、要はこのことがバレなければいいのだ。
イレーナが暴露しない限り、誰にも知られることはないだろう。
護衛騎士たちが高揚感を隠せない様子でそわそわしている。
イレーナが訊ねてみると、彼らは興奮ぎみに語った。
「私たちの身分だと団長とはめったにお話できないんです」
「団長は陛下の信頼も厚いので、誇りに思います」
「占いに興味のあるところがまたぐっときますよね」
照れくさそうに語る騎士たちに向かってリアが明るく言う。
「ギャップ萌えってやつですね! この本に書かれているヒーローみたいな!」
冷静な目でリアを見つめるイレーナ。
そして、やけにテンションの高い騎士たち。
イレーナは無言だが、胸中でひっそりと呟く。
(あなたたちの尊敬する団長は皇帝の妃と不倫中ですけどね)
このことは墓場まで持っていくことにした。