人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
それなのに、後日イレーナは正妃アンジェに呼び出されたのである。
(え……どうして? 顔は見られていないはずなのに、どうして?)
不安な顔で正妃の部屋に向かうイレーナのとなりでリアがのんきな声を上げた。
「まさかアンジェさまからお茶会のご招待があるとは思いもしませんでしたね」
「そ、そうね……」
「アンジェさまはあまり人と会うことを好まないらしく、ほとんど部屋にこもりきりなんですって」
「へえ、そうなの?」
「だから、使用人たちのあいだでも一部しかアンジェさまのお姿を拝見したことがないんですよ」
(それは騎士団長と不倫をするために占い師に変装しているからよ)
などと言えるわけもなく、イレーナは黙って相づちを打つだけだった。
正妃アンジェの部屋は広々としている。
赤に金の刺繍が入った質のよい絨毯が敷かれ、豪華なシャンデリアと高級家具が揃い、テーブルには生花が飾られ、たくさんのお菓子が並んでいた。
装飾品を身につけ、シルクのドレスを着たアンジェは、書庫で見かけたよりもずっと美しく着飾っている。
本来の姿であるアンジェの気品はまぶしすぎて目が眩むほどだ。
「はじめまして、でいいのかしらね?」
アンジェの言葉にイレーナはどきりとした。
(ああ、これ気づいてるわ。絶対そうだわ)