人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています

 おそらくは皇帝も侯爵もアンジェも、お互いの腹の内を探りながら弱点を見つけ出そうとしているはずだ。
 何かのきっかけで簡単に内戦は始まってしまう。

(本来、不貞は皇帝の意を背く行為なのにね)

 それを理由に妃に罰を与えられそうなものだが、おそらくそれもヴァルクは手出しできないだろう。
 (いくさ)が終わったばかりで疲弊した騎士たちに、すぐ内戦で戦えといっても無理なことは戦に()けた皇帝が一番よくわかっているはず。

(様子見ってことね)

 イレーナは静かに紅茶を飲んだ。
 そして、もっとも気になることを訊ねる。
 
「それでもしご懐妊されたりしたら、どうなさるおつもりですか?」

 問題はそこだ。
 正妃が皇帝以外の子を身籠ったら、さすがにそれは大問題になる。
 アンジェは笑顔で答える。

「マタギ草の薬を飲んでいるわ」
「え? あの不味い薬を?」
「あら、あなたも飲んでいるのね?」
「え、えっと……まあ」
「ふふっ、陛下のお気に召したようね」
「さ、さあ……どうでしょうか」

 イレーナはもごもご濁すようにして、紅茶を飲んだ。

 それにしても、とイレーナは思う。
 皇帝は遊びたいからと避妊し、正妃は別の男と不倫中。

(この国、滅びないかしら?)



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