人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
イレーナの待遇は人質とは思えないほどよかった。
食事はふんだんな野菜を使った前菜に魚料理と肉料理、ふわふわのパンにスープ、それにデザートはケーキやチョコレートやプディングまであった。
正直、公国はあまり裕福ではなかったので、公女といえどもあまり贅沢はできなかった。
しかし、帝国はやはり国の規模も大きく、おまけに戦勝国とあって街は活気にあふれている。
皇帝ヴァルクは恐ろしい怪物とか生きた死神とか、そんな噂ばかりを耳にしていたイレーナは少々拍子抜けしてしまった。
「民は明るいし、陛下もそれほど恐ろしいイメージではないわね」
食事中にそんなことを呟くと、そばにいた侍女が話しかけた。
「そうなのです。陛下はあの体格で言葉遣いも少々荒々しいところがございますから、誤解されやすいのですが、私たちを好待遇で雇ってくださっているので感謝ばかりです」
侍女はにっこりと笑った。
その笑顔でイレーナはすべてを悟る。
もしも噂どおり簡単に人を殺してしまう恐ろしい皇帝なら、使用人たちはこれほど落ち着いてはいないはずだ。
イレーナが見る限り、使用人たちは皆、穏やかに仕事をしている。