人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています

 イレーナは深刻に考えごとをしていた。

「……さま、イレーナさま!」

 そう、リアの声も届かないくらいに。

「え? 何かしら」

 イレーナが顔を上げるとそこには皇帝ヴァルクが立っていたのである。

「俺が来たのも気づかないとは、一体何を考えていた?」
「ひっ……!」

 イレーナはソファから立ち上がり、急いでドレスの裾を持ち、挨拶(カーテシー)をおこなった。

「皇帝陛下にご挨拶申し上げ……」
「ほら」
「ぶっ……!」

 いきなり顔にクッションのようなものを当てられて、イレーナは固まった。
 だが、この感触は悪くない。
 ふわっとして心地よい。
 落ち着いてよく見たら大きなクマのぬいぐるみだった。
 それも首もとにピンクのリボンまでついている。

「あら、可愛い。一体どうされたんですか? これは」
「妻への贈り物だ」
「……妻?」

 イレーナが呆気にとられていると、リアと使用人たちがきゃあきゃあ騒いだ。
 彼女たちは「失礼いたします。ごゆっくり」と言ってさっさと退室してしまった。
 ふたりきりになるとイレーナは羞恥のあまり顔が燃えるほど熱くなった。

(お、落ち着いて。妻なんてお飾りなんだから。アンジェさまが正妻なんだから)



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