人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
なぜか鼓動が激しく高鳴る。
これは今までの緊張とは少し違うようだ。
イレーナは複雑な心境で、クマのぬいぐるみを見つめる。
そして、ハッと気づいて急にもやもやしてきた。
「でしたら、普通に渡していただきたいです。こんな、顔にぶつけるなんて、せっかくお化粧したのに台無しです」
勢いで胸の内をさらし、あろうことか皇帝に反論するとは、イレーナは即座に後悔し、自分の身を案じた。
だが、ヴァルクは「ははっ」と声を上げて笑った。
「お前は本当に変わっているな。他の奴らは俺の機嫌を取るのに、お前は素直に感情をぶつけてくる」
「お、お怒りでございますか?」
イレーナはクマのぬいぐるみを抱いたままカチコチに固まっている。
ヴァルクはイレーナの顔を興味深そうに覗き込む。
「いや、面白い」
「え?」
「お前がそのままでよかった」
「それは、どういう意味ですか……って、きゃあっ!」
ヴァルクはクマのぬいぐるみを抱いたイレーナを抱き上げた。
「少し重くなったな。食事の量を増やして正解だった」
「し、失礼ですわ! 女に太ったなんて言わないでいただきたいです」
「このほうが触り心地がいい」
「ひゃあっ!」
腰を触られて驚いたイレーナがヴァルクに抱きついたので、クマはぺしゃっと潰れた。