人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
昔は公国で民にまぎれて商売人のところでいろいろ手伝ったりしたものだ。
自分の考案したものを作って売ることの楽しさをすでに知っている。
公女でなければ商売人になりたかったくらいだから。
そうだ。落ち着かなければならない。
妃が商売に手を出すなど、他の貴族たちからどう思われるか。
この国は公国と違って権力争いの巣窟だ。
いくら皇帝がよしとしても、ここはおとなしくしておくべきだろう。
「私は思いついたことを言っただけです。あとは商人の方々にお任せいたしますわ」
「そうか。それなら他にも何か思いついたことはないか? お前の意見を聞いてやろう。何でもいいぞ」
「え……?」
まさかそんなことを言われるとは予想もせず、イレーナは驚いた。
しかし、ヴァルクが冗談を言っているようには思えない。
ただの人質でお飾りの妻なのに、彼は大切なことに関してイレーナに意見を求める。
意外すぎて思いつかないので、イレーナはとりあえず言いたいことを口にした。
「あの、そろそろ降ろしていただけないでしょうか?」
ヴァルクはぬいぐるみを抱っこしたイレーナを抱っこしたまま突っ立っているのだ。