人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています

 一瞬彼の表情が固まったので、イレーナは怒らせたかと危惧したが、そうではなかった。
 彼はにやにやしながらイレーナをベッドに降ろし、自身はとなりに座る。

「軽すぎて気づかなかった」
「先ほどは重いって……」
「気にするな。女は冗談が通じなくて困る」
「体重は一番気になるところなんです!」

 ヴァルクはとなりでイレーナをじっと見つめた。
 少し口角を上げているが、やけに真剣な表情だ。
 イレーナはどきりとして目をそらす。
 すると、ヴァルクはおもむろにイレーナの頬を指先で撫でた。

「先ほどお前は化粧のことを気にしていたが、しなくてもいいぞ」
「え? それはどういう……」
「しなくても綺麗だと言っている」

 イレーナは赤面し、急激に鼓動が高鳴った。
 恥ずかしくなり顔を背けるとヴァルクは髪をくしゃっと撫でた。
 こういう行為にいまだ慣れない。
 毎回ドキドキしすぎて心臓が壊れそうになるのだ。
 このあとはもっとドキドキすることが待ち受けているのに、なぜか最初に触れられるときが一番緊張する。
 それに、妙に胸の奥がぎゅっと締めつけられるような気分になるのだ。



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