人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
イレーナは驚愕し、思わず声を上げた。
「ええっ? 嘘でしょう?」
「おい、お前の中で俺のイメージはどうなっている?」
「冷酷非道で他人の話をお聞きにならない暴君と……あっ」
ヴァルクは半眼でイレーナを見つめた。
イレーナも今までは内に秘めていたことを口にしないように気をつけていたのに、ヴァルクがあまりにも優しいのでうっかり口を滑らせてしまった。
「そうか。なるほど。お前にそのような情報を与えたのは誰だ? 侍従のテリーか? それとも侍女のリアか?」
「いいえ、とんでもない。おふたりは陛下のことを慕っておいでです」
ヴァルクはなおも不機嫌な顔でため息をつく。
(意外と繊細なのかしら?)
イレーナが様子をうかがっていると、ヴァルクは眉をひそめてさらに表情が強張った。
急に恐ろしくなって縮こまるイレーナの顔を覗き込むようにして、ヴァルクは訊ねる。
「お前は俺の言うことが聞けないのか?」
低く唸るような恐ろしい声だ。
イレーナはびくっと震え上がった。
(まずい。怒らせてしまったわ……!)