人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
「お前に何か贈り物をやろうと思う」
「贈り物ですか? それなら先ほどクマちゃんをいただきましたが」
「あれは試作品だ。もっと大きなものを与えてやろう」
ぎゅっと抱かれたまま、低く心地よい声が耳もとでする。
これだけで十分だと思った。
「私はこうしてヴァルクさまがいらしてくださるだけで満たされています」
そう言うと、ヴァルクは満足げに笑った。
「お前は物欲がないのだな。よその国の王女は贅沢三昧だと聞くが」
「うちはそれほど裕福な国ではありませんから。父は民のことを思い、贅沢を嫌う人です」
「そうか。実はお前のために新しく宮殿を建造しようと思ったのだが」
「ええ? 必要ありません! 私はこのお部屋だけで十分です!」
イレーナが驚き慌てるので、ヴァルクは面白そうに笑った。
「やはりお前は……」
「え?」
「いや。わかった。もし、何か望むものがあれば遠慮なく言うんだ」
髪を撫で撫でされて、頬をすりすりされて、イレーナは胸の奥がぎゅんぎゅん痛い。
(望むものなんてないくらい、心地よくて幸せ)