人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
ただ、これはチャンスかもしれない。
以前、この国について怪訝に思っていたことが脳裏によぎる。
今なら聞き入れてもらえるかもしれないのだ。
同時に、侍従のテリーの言葉を思い出す。
――陛下はご自身のやり方に口出しをする者をもっとも嫌います――
今の彼ならイレーナの聞く耳を持つのではないか。
「あのう、私の宮殿を建てていただくよりも、その財源をもっと別のところにお使いいただきたいのですが」
ヴァルクはイレーナの髪を撫でたまま手を止める。
「別のところとは?」
「えっと……学校とか、いかがでしょう?」
予想外の答えだったのか、ヴァルクは目を丸くした。
「学校ならあるぞ。もっと増やせと?」
「それは貴族の学校でございましょう? 私が言っているのは平民のための学校です」
「平民が学校へ行くのか?」
意外だとでも言うように、ヴァルクは訊ねた。
するとイレーナは身体を起こし、真剣な表情で話した。
「はい。平民でも学のある子どもがいるのです。しかし平民ゆえに学校へ通うことができず、その才能を開花させることができません。もしかしたらその平民は将来、国を救う人間になるかもしれないのにです。もったいないことだと思いませんか?」