人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
そう思って、何とか思考を振り切る。
好きになってはいけない。
彼にとってあくまでイレーナは遊び相手であり、今だって羽毛のことも学校のことも有益だと判断して聞き入れてくれたにすぎない。
そこに、特別な感情はないはずだ。
「来い。寝るぞ」
「きゃっ……」
イレーナは手を引っ張られ、ふたたびヴァルクの胸にぴったりとくっついた。
そして、先ほどよりも密着したままぎゅっと抱きしめられる。
何もしていないのに鼓動が高鳴って、身体が熱を帯びて、このままでも溶けてしまいそうだ。
ドキドキしながら固まるイレーナに、ヴァルクがそっと話しかける。
「お前の国の平民は学校へ通っているのか?」
「はい。父上がそうしたのでございます」
イレーナは何とか落ち着いて返答した。
すると、彼は意外なことを口にした。
「そうか、ではお前の父を見習おう」
まさか、自国を褒めてもらえるとは思わなかった。
(どうしよう。本当に嬉しいわ)
イレーナはこの上なく幸せに包まれた。
けれど、あまりにドキドキしすぎて眠れなかった。