人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています

 大会議室には長テーブルがあり、中央に皇帝が鎮座し、周囲にずらりとお役人が並ぶ。
 皇帝のすぐ横が正妃アンジェの席で、イレーナは反対側。
 アンジェと向かい合う形で座る。
 アンジェと目が合ったイレーナは緊張のあまり手が震えた。

(どうして私こんなところにいるんだろう?)

 先ほどの威勢が吹き飛んでしまうほど心臓がバクバクしている。 
 しかし、なんとか顔には出さないようにぐっと唇を引き結ぶ。
 きっと表情がガチガチになっているだろう。 

 対するアンジェはさすが堂々たる姿。ゆったりと落ち着いていて微笑みを絶やさない。

(ああ、やっぱり正妃に敵うわけがないわ。オーラがまぶしすぎるもの)

 アンジェから放たれる気品は素朴なイレーナには強烈すぎた。
 しかし、イレーナはふと前日にヴァルクから言われたことを思い出す。
 緊張のあまり口数が少なかったイレーナに彼はこう言ってくれたのだ。

『お前は一国の姫として育った。だが、アンジェは令嬢にすぎない。王女と令嬢では立場が格段に違う。受けてきた教育もそうだ。お前は恐れず皆の前で堂々と王女の威厳を見せつけてやればいいのだ』

 イレーナを励ますために言ってくれたのだろう。
 だが、貧乏小国の姫と巨大な帝国の令嬢では、比較にならないではないか。
 そもそも比較するものではない。

(アンジェさまは食堂でバイトなんかしたことないわ。絶対ないわ)


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