人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
7、正妃アンジェの胸のうち
会議終了後、参加者たちのイレーナに対する印象は大きく変わっていた。
「イレーナ妃はなかなか聡明な方だな」
「貧乏公女と噂だからどれほどみすぼらしいのか確認するつもりだったが、大変失礼なことをした」
「よくある王女の傲慢さがまったくないところもいい」
それぞれがイレーナについて語る中、ひとり憤慨する男がいた。
「くそっ! くそっ、くそっ、くそおーっ!!!」
スベイリー侯爵が足でダンッダンッと床を踏みつけながら叫んでいた。
その背後にはアンジェが黙って立っている。
「なんだ? あの妃は。生意気に意見などしおって!」
侯爵はイレーナの話題を口にする者たちを遠目で睨みながら、自身の口髭を触り、ぶつぶつと愚痴をこぼす。
アンジェはそんな父の姿を冷静に真顔で見つめる。
「まったくです。よそから来た人質に過ぎない小国の姫が偉そうに帝国の内政に口を出すとは、虫唾が走りますな」
侯爵と同じ貴族派の者たちも口をそろえて文句を言う。
「だが、我々にはアンジェさまがおりますので、あの妃もこれ以上は出しゃばりませんよ」
伯爵家や子爵家の者たちはスベイリー侯爵の機嫌を取ろうとした。