人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
侯爵令嬢として生まれたアンジェは幼い頃から皇帝ヴァルクと顔見知りだった。
いずれ皇帝に嫁ぐ身として、幼少より妃教育を受けた。
親の決めた道を歩くのが当たり前だと教えられてきたので、そのことに疑問を抱くこともなく育った。
しかし『ある出来事』により考えが変わってしまった。
やがて成長し、正妃として迎えられたアンジェは、皇帝との初夜でこう言った。
「わたくし、陛下と夜伽をするつもりはございません」
アンジェは頑なにヴァルクを拒絶した。
彼もそんなアンジェに無理強いをしなかった。
こうして、アンジェは自ら形だけの妃となったのである。
ヴァルクもアンジェがスベイリー侯爵の娘であることに警戒をしていた。
お互いに近いところにいながら深い溝があり、決して心を通い合わせることはない。
だが、アンジェはきちんと『皇帝の妻』としての自覚を持ち、他の者の前では威厳を保っている。
ヴァルクも他の者の前ではアンジェに気さくに話しかけている。
周囲は皇帝と正妃は仲睦まじいと思い込んでいた。
しかしそれは、ふたりの演技にすぎない。