人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
「まさか、イレーナ妃が政務にまで口出しされるとは思いませんでしたね。あれはアンジェさまの役割なのに皇帝陛下も何をお考えなのでしょう?」
アンジェが部屋に戻って着替えていると、侍女が困惑の表情でそう言った。
だが、アンジェは黙ったままグレーの目立たない衣服を被る。
「側妃の役割はお子を産むことだけですのに、出しゃばりにもほどがありますわ」
アンジェはすっぽりとフードを被ると、はみ出した金髪を中に入れる。
「あなた、少しおしゃべりが多いわよ」
「えっ……申しわけ、ございません」
アンジェは静かに忠告すると、侍女は慌てて頭を下げた。
「アンジェさまのお立場のことを思うと、私は悔しくて……」
「いいのよ。少しうるさいだけだもの」
アンジェはどこか遠くを真顔で見つめる。
「もうやめましょ。陰口はみっともないわよ。わたくしは彼女を恨むつもりはないわ」
「アンジェさま、なんてお優しい!」
侍女は感動している。
アンジェは静かな笑みを浮かべる。
彼女は決して心の内を、たとえ親しい侍女にも話さない。
(わたくしの立場を奪われたとしても、恨みや憎しみなどないわ。ただ、あの子の笑顔を見ると……)
最後はぼそりと口に出す。
「イライラするわね」