人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
8、皇帝と町の視察(デート♡)へ行きます
ある日、皇帝が町の視察へ行くことになった。
その同行者としてイレーナが選ばれたのである。
もちろん周囲からは賛否両論あった。
「側妃の分際で出しゃばりすぎだろう」
「アンジェさまを差し置いて」
「お忍びだからわざと貧相な側妃を選ばれたに違いない」
「たしかにアンジェさまは気品あふれるお方だからな」
イレーナは城内を歩くたびに周囲からひそひそ聞こえてくる声にうんざりしていた。
あの会議以来風当たりが強いので、おとなしくしておきたかったのに、なぜヴァルクはイレーナに目立つようなことをさせるのか。
(はぁ……めんどくさいわ)
鬱々とした気分のイレーナと違って、リアは大喜びだった。
「完成しました。これでイレーナさまはどこからどう見ても平民です」
メイクを終えたリアが額の汗を拭いながらふうっとため息をもらした。
(これは喜んでいいのか複雑だわ)
鏡の前には茶色のワンピース姿のイレーナが映っている。
化粧は薄く、髪型はうしろでひとつに三つ編みしており、どこから見ても下町の娘だ。
リアも使用人たちもにこにこしている。
(でも、みんな目的に合わせたコーディネートをしてくれたんだもの。むしろ、ありがたいと思うべきね)