人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています

 テリーにはふたりがいちゃついているように見えて、すかさず「ごほんっ」と咳払いをした。

「本名もバレてしまいます。めずらしいお名前でございますからね」
「では、どうすればいいのだ?」

 ヴァルクが眉をひそめてイラついているので、イレーナはすぐさま提案した。

「愛称を決めませんか?」
「愛称だと?」
「ええ。うちのオタマ(猫)の本当の名前はイレーナーズカザルフォレストキャットというのでございます」

 目をキラキラさせながら愛猫の本名を口にしたイレーナに向かってテリーは冷静に口を挟む。

「長い上にまったくオタマと関連性がございませんな」

 だが、ヴァルクは乗り気だった。

「よし。お前が俺の愛称を決めろ」
「よろしいのですか? では、ヴァルさまでいかがでしょうか?」

 テリーはため息をつく。

「あまり変わっておりませんが?」
「よし、それにしよう。呼んでみろ」

 ヴァルクに言われてイレーナは「ヴァルさま」と少し高いトーンの声で呼んだ。
 ヴァルクは頬を赤らめたあと、イレーナを再度抱き寄せた。

「こいつ、可愛すぎるだろ」
「ちょっと、ヴァルさま。あまり髪を撫でられるとせっかくの三つ編みが……」

 ふたりの背後でテリーがぼそりと呟く。

「このバカップルが」



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