人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています

 町は活気にあふれている。
 市場には新鮮な食糧が並び、異国から取り寄せためずらしい宝飾品や衣服などを取り扱う店もある。
 イレーナはとある店の行列に目を留めた。

「ずいぶん賑やかだわ。何を売っているのかしら?」
「行ってみるか」
「はい」

 ヴァルクがにやりと意味ありげに笑い、イレーナは首を傾げる。
 店の前には客たちが押し寄せて、来たばかりの客と購入済の客でごった返していた。

「これは一体どうしたの?」

 イレーナがそばの女性に声をかけると彼女は目をキラキラさせながら答えた。

「素晴らしいクッションを売っているんですって。何でも宙に浮いているような気分になれるそうよ」

 すると別の老婆が話に割り込んできた。

「私はすでに使っているんだがね。あのクッションのおかげで腰が軽くなってね。天にも昇る気分さ」

 さらに、若い夫婦が話に加わった。

「私たちは奮発して布団を購入したの。もうふわっふわで最高の寝心地よ」
「ああ、そうだ。妻と一日中ベッドにいたいくらいさ」
「やだわ、あなたったら。うふふ」

 それだけ聞いてイレーナはぴんときた。



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