人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
店の中を覗いてみると、そこには布団や枕、クッションやぬいぐるみとあらゆるものが置いてある。
押し寄せる客たちが次々と購入していくのだ。
「そういうことだ」
ヴァルクは満面の笑みを向けた。
イレーナは感動して涙ぐみながら礼を言った。
「ありがとうございます。この様子を私に見せてくれるために、わざわざ平民のふりまでして連れてきてくれたのですね」
「まあ、それもある。だが、別の理由もあるぞ」
「えっ……?」
ヴァルクは突然イレーナの手を握り、走り出した。
「ああっ! 陛……ヴァルさまああっ!!」
侍従のテリーの悲鳴じみた声とともに護衛騎士たちが追いかけてくる。
イレーナはわけがわからず、足がもつれそうになりながら必死に走る。
つまずきそうになると、ヴァルクはいきなりイレーナを抱きかかえた。
「陛下、お待ちくださ……」
「愛称はどうした?」
「ええっ? こんなときに?」
ヴァルクはイレーナを抱えたまま猛スピードで人々の中を駆け抜ける。
あっという間に護衛騎士たちを撒いてしまった。
「もう、ヴァルさまあっ!!!」
どうしようもないが、イレーナはその名を叫んだ。