人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
それだけじゃない。
万が一、毒があって皇帝が死ぬようなことになれば大惨事である。
「美味そうだな。串を2本くれ」
「まいどー。兄ちゃんイケメンだからサービスしてやろう」
ヴァルクはまったく抵抗もなく店主と会話をしている。
それがイレーナには衝撃だった。
目の前には額に布を巻いたおじさんと、体格のいいヴァルク。
まるで肉体労働を終えて帰宅途中の男のようにイレーナには見える。
(い、違和感がまったくないわ……)
城にいたときは皇帝としてのオーラがあったはずなのに、今ではすっかり平民に馴染んでいる。
店主は焼きたての串焼きをたっぷりのタレの中に沈めてから取り出した。
すると串焼きからとろりと香ばしいタレが滴り落ちる。
(お、美味しそう。だけど……)
ヴァルクが店主から受けとった串焼きをイレーナに差し出した。
それを受けとったイレーナはヴァルクよりも先に、すぐさま口に入れる。
にこにこ笑うどう見ても無害な店主だが、念には念をとイレーナは自分が先に食べて毒見するつもりだった。
しかし口に入れた瞬間、じゅわっと柔らかい肉と絡みついたタレの絶妙な味わいに、壮大な花畑が脳内に広がった。
(ああ……天にも昇るほど美味だわ!)