人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
毒は入っていない。それどころか、串焼きがこれほど美味しく感じるとは思わなかった。
今まで食べたことはあるが、ここしばらく宮廷料理しか口にしていないから、こういう素朴な味がなつかしく感じて涙があふれた。
「泣くほど腹が減っていたのか。朝メシを食わなかったのか?」
「え、ええ……準備に時間がかかってしまって……」
「メシは食え。せっかく量を増やしてやったというのに」
「も、申しわけございませ……」
「美味い!」
ヴァルクは串焼きを口に入れた瞬間、目を見開いて感嘆の声を上げた。
「何だこれは? 城にはない料理だな。おい店主、これを皇城で作らないか?」
「あっはっはっは。兄ちゃんおかしなことを言っちゃいけねえ。俺のようなド庶民が足を踏み入れられる場所じゃねぇよ」
「だが、皇帝は気に入ると思うぞ?」
「そんなわけあるかい! 一昨日だってどこぞの貴族がうちの店を罵倒していったんだ。気に入らないなら近づかなきゃいいものを、わざわざ見下すためだけにやって来るのさ。貴族さまってのはおごり高ぶる奴らばかりで反吐が出るぜ」
イレーナが目をちらりと向けると、ヴァルクはしばし無言のあと、黙って串焼きを平らげた。
(複雑な気持ちだわ……)