人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
「それはきっとヴァルさまがお腹をすかせていたから、余計に美味しく感じたのかもしれませんね」
「それもあるが、何より店の者たちの対応がよかった。俺のような見ず知らずの者に親切にしてくれた。あの出来事は一生忘れないだろうな」
「そんなふうに思われて、その者たちが知ったらとても喜ぶでしょうね。けれど、その者たちからすれば、当たり前のことをしただけなのかもしれません」
ヴァルクはじっとイレーナを見つめる。
イレーナはきょとんとして首を傾げる。
「どうかしましたか? もしかして私は何かまずいことでも……」
「いや、何でもないさ」
ヴァルクはふっと意味ありげに笑った。
イレーナはさらに不可解だったが、ヴァルクが笑顔なのでほっと安堵した。
(先ほどのことで気を悪くしているかと思ったけど、大丈夫みたいだわ)
あまり綺麗ではない店の串焼きを頬張って美味いと言う。
とても皇帝とは思えない振る舞いだが、本当に国を治める者が知るべきことを、彼は心得ている。