人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
9、彼のとなりで支えていきたい
ふたりは町の外れまで足を運んだ。
すでに町らしい風景はなく、荒地と古びた小屋が並ぶだけだった。
舗装されていない砂利道には割れた皿や腐った食材が落ちており、小屋の前で座り込む人もいた。
彼らが身につけているのは破れた衣服。
汚れていてもかわまないようだった。
それどころか、裸足で歩いている者もいる。
ここは貧民街だ。
都から見捨てられた村と呼ばれている。
「ああ、そこの人……どうか、恵んでください……このままでは、死んでしまう」
ぼろ衣を身につける歯の欠けた老人が痩せこけた腕を伸ばしてきた。
「せめて……せめて、子どもたちに……」
母親らしき女が乳児を抱えて物乞いしている。
その背後に数人の子どもが裸足のまま指をくわえてじっと見ていた。
ヴァルクがポケットに手を突っ込んでビスケットを取り出すと、母親と子どもに分け与えた。
子どもたちは少しのビスケットを奪い合うようにして貪った。
「ヴァルさま……」
「わかっている。一時しのぎに過ぎない。この村のことは以前から気になっていた。先代はとんでもない課題を残してくれたな」