人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
村には古びた教会があり、帝国とは独立した考えを持っている。
教会は孤児院を設けて親のいない子どもを受け入れているようだが、金がないのでろくに食べ物を与えることができないようだ。
「ここにいる子どもたちのほとんどは町で生まれ育ったようです。ですが、親は兵士として戦場へ赴き、帰ってこなかったのです」
「よく知っているな」
「書庫の記録で確認しました。あとは、テリーさんたちに村の様子を調べてきてもらって……」
ヴァルクが険しい顔をして睨むように見ているので、イレーナはどきりとした。
「申し訳ございません。勝手な真似をいたしました」
ヴァルクは困惑の表情を浮かべるイレーナの頭をくしゃっと撫でた。
「先帝は民を捨て駒のように扱っていた。欲のために勝てない戦争を繰り返し、経験のない者たちを戦場へ送ったのだ。結果、己自身も破滅に導き、この国はこの有り様だ」
イレーナは少し驚いてヴァルクを見つめた。
「その尻拭いを今、俺がさせられているんだよ」
ヴァルクは眉間にしわを寄せて苦笑する。
「何にせよ、近いうちに手は打つ。ひとまず行くぞ。教会と話さねばならない」
「はい」
帝国に不信感を持っている教会は、皇帝であるヴァルクを歓迎しない。
だから彼は身バレしない格好で行くのだろう。