人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています

 となり合って歩きながら、イレーナはずっと疑問に思っていたことを口にしてみた。

「ヴァルさまはどうして、私を娶られたのですか?」

 急にそんな質問をされたせいか、ヴァルクは驚いてイレーナをじっと見つめた。
 それから彼は笑って答える。

「カザル公国には頭脳明晰な姫がいると聞いたのだ。その者は刺繍ではなく勉学を好み、宝石よりも書物を愛すると聞いた。興味深いと思って俺のそばに置きたくなった」

 イレーナはそれを聞きながらだんだん頬が赤くなっていく。
 ヴァルクはにやりと笑った。

「想像以上の姫だったな。特に、夜伽が」

 イレーナは羞恥のあまり自身の顔を覆った。

「もうっ! おやめください!」

 ヴァルクは「はははっ」とからかうように笑った。

 けれど、イレーナは何か引っかかるのだ。
 初夜の日のヴァルクはイレーナを見ていきなり投げ飛ばしたし、結構酷い扱いをしていた。
 とても初めて過ごす妃への対応ではなかった。
 それがヴァルクの性格と言えばそうなのだが、あれはまるで家族や親しい者、たとえば幼馴染や昔からの友人に対する態度のような気もする。

(具のないスープ……)




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