人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています

 大人げないと思いつつも、おばさん呼ばわりされてただ嘲笑するヴァルクに対し、イレーナはふといたずら心が芽生えた。

「ねえ、あっちにおじさんもいるわよ。おじさんはいいものを持っているかもしれないわよ」

 イレーナが指さすと子どもたちの興味はそちらへ向いた。

「あ、じじい!」
「じじいだ。じじい。お菓子ちょうだい」

 ヴァルクは真顔でつかつか近寄り、子どもたちを威嚇するように見下ろした。

「誰がじじいだ? コラァ」
「ひいっ! じじいが怒った」

 子どもたちはすばやくイレーナの背後に隠れる。
 イレーナはふっと鼻で笑ってヴァルクを見据えた。

「子ども相手に大人げないですよ」
「うるせえ。ほらっ」

 ヴァルクが残りのビスケットを差し出すと、子どもたちは奪い合いになった。
 それを見ると、ここでもほとんど食べ物を与えられていないのだろうとイレーナは思った。

「おい、お前たちの主人と話したい。どこにいる?」

 ヴァルクが訊ねると子どもたちは「あっち」と教会の裏の建物を指さした。
 そこも老朽化の激しい煉瓦造りの建物だった。

「先生はお金をくれる人なら大歓迎だよ!」
「そうそう。先生はお金が大好きなのよ!」

 それを聞いたイレーナは複雑な心境になった。



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