人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
子どもたちが先生と呼ぶのは教会の司祭だった。
イレーナとヴァルクは応接室へ通され、古びたソファに腰を下ろした。
室内には物がほとんど置かれておらず、粗末な造りの石壁には割れ目が入り、穴が開いているところもある。
嵐でも来れば潰れそうなほど危うい。
出された茶もカップの端が欠けていて、ヒビも入っていた。
あご髭を長く伸ばした老齢の男がふたりと向かい合う。
男の腕はしわくちゃで痩せ細っており、苦労していることがわかる。
「孤児院に寄付をしてくださるそうで、ありがたく頂戴いたします」
司祭はにこにこしながらヴァルクに機嫌よく話しかけた。
ヴァルクも笑顔で返す。
「腹を空かせた子どもたちのためだ。そちらが必要な金額を提示するがよい」
「誠に恐縮でございます。あなた方は帝国の貴族でございましょう? 一体どこの家門のお方でしょうか? 帝国は我が教会とは相容れぬ存在。だが、施しをいただいた家門には礼を尽くしたいと思っております」
「どこの家門か知りたいか?」
ヴァルクの言葉にイレーナはどきりとする。
(家門を偽って伝えるつもりかしら?)