人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
貴族のふりをするのだろうとイレーナは思った。
しかし、ヴァルクはとんでもないことを仕出かした。
彼は懐から金の紋章を取り出し、それを司祭に見せたのだ。
それを見た司祭は驚愕し、急に表情を強張らせた。
「ドレグラン帝国の皇族……!」
「ああ、よく知っているな。そのとおりだ。俺は皇城の人間だ」
イレーナは目を見開いてヴァルクを凝視した。
(まさか帝国嫌いの司祭に自ら正体をバラすなんて!)
案の定、司祭は激高した。
怒りの表情で立ち上がるとヴァルクに怒声を浴びせる。
「この……よくも、ここに顔を出せたものだ! 帰れ! 貴様らの施しなら受けんぞ!」
司祭の穏やかな態度は一変し、恐ろしい形相になっている。
それに対し、ヴァルクはいたって冷静である。
「落ち着けよ。とりあえず、茶でも飲もう」
ヴァルクは欠けたカップに入った茶を口に含む。
イレーナはとっさに止めようとしたが、ヴァルクは片手を差し出し制止した。
彼は茶を飲み干してしまった。
そして、真面目な顔を司祭に向ける。
「俺は敵であるそちらから出された茶を飲んだぞ。これの意味がわかるか?」