冴えない男子は学校一の美少女氷姫と恋人になる
「見て見て、ショーが始まるよ。やっぱりイルカは癒されるよねー」
「瑞希はイルカが好きなんだね」
「大好きに決まってるじゃない。あのキュートな目に、艶々の肌、心をくすぐるあの声、それに──」
「分かった、瑞希がイルカ好きなのは十分分かったから」
ここで止めなければ永遠にイルカ愛を語られそうで。
誠也は瑞希の言葉をなんとか遮った。
間もなくして待ちに待ったイルカショーが開演。
トレーナーの指示でイルカ達が広い水槽を泳ぎ回る。
天井から吊られたボールを触ったり、トレーナーを乗せて泳ぎ大ジャンプを見せたりと、会場は大いに盛り上がった。
「すごーい、私、こんなイルカショー初めて見たかも」
「瑞希が喜んでくれて僕は嬉しいよ」
楽しい時間はあっという間に過ぎ去っていく。
ショーも終盤に差しかかり、トレーナーから最後に大ジャンプを披露すると、場内アナウンスがあった。
「なんかあっという間だったよね。こんな楽しい時間をありがと、誠也」
天使の笑顔──誠也にはそう見えた。
とても演技とは思えないほどの笑顔。もしこれが演技であったのなら、アカデミー賞を受賞できるレベル。
偽りの恋人というのを一瞬忘れてしまうほど可愛かった。
周囲の声は雑音にしか聞こえず、誠也の瞳には瑞希しか映っていない。
ダメだ、騙されてはいけない、誠也が自分に言い聞かせ、冷静さを取り戻すと、目の前でイルカが大ジャンプを決めた。
大量の水しぶきが観客席へ乱入する。
その先に見える未来はただひとつ。
ずぶ濡れとなり天使の笑顔が消える未来。
刹那の時間で反応した誠也、瑞希を抱きしめるように水しぶきから体を張って守り抜いた。
「大丈夫? 濡れてない?」
「う、うん……。大丈夫、だよ、誠也が守ってくれたからどこも濡れてないよ……」
「なら良かった」
本当の恋人のように抱き合うふたり。
お互いの唇が触れそうになるくらいの近さ。
心拍数は当然跳ね上がり、瑞希の顔は真っ赤に染まっていた。
「あの、その……。そろそろ離れて欲しいんだけど」
「あっ、ご、ごめん」
「ううん、別にイヤというわけじゃなくて──って、誠也、びしょ濡れじゃないの」
「そうみたいだね。でも、瑞希が無事ならこれくらい平気だよ。服だってそのうち乾くだろうし」
──ドキッ。
瑞希の心に誠也の言葉が突き刺さる。
急にしおらしくなり、氷姫の仮面が剥がれ落ちた。
「ダメよ、そのままにしたら風邪引いちゃうじゃないの」
「瑞希は心配しすぎだって」
「これじゃ私が責任感じるじゃないの」
自分でもなぜそうしたのか分からなかった。
瑞希は誠也の後ろからそっと抱きしめ、自分の体温を分け与えようとする。心音は徐々に大きくなり、それは決してイヤな感覚ではない。
ふたりからは会話が失われ、瑞希はしばらくの間周りの目も気にせず抱きしめていた。
「も、もう大丈夫だから。そろそろ帰ろっか」
「……う、うん。絶対に風邪引いたらダメだからねっ。もし引いたら絶対に許さないんだからっ」
怒りながらもしっかり恋人繋ぎで水族館をあとにするふたり。
偽りのデートは無事に終わりを告げ、ふたりの心に何か大切なものを残した。
「瑞希はイルカが好きなんだね」
「大好きに決まってるじゃない。あのキュートな目に、艶々の肌、心をくすぐるあの声、それに──」
「分かった、瑞希がイルカ好きなのは十分分かったから」
ここで止めなければ永遠にイルカ愛を語られそうで。
誠也は瑞希の言葉をなんとか遮った。
間もなくして待ちに待ったイルカショーが開演。
トレーナーの指示でイルカ達が広い水槽を泳ぎ回る。
天井から吊られたボールを触ったり、トレーナーを乗せて泳ぎ大ジャンプを見せたりと、会場は大いに盛り上がった。
「すごーい、私、こんなイルカショー初めて見たかも」
「瑞希が喜んでくれて僕は嬉しいよ」
楽しい時間はあっという間に過ぎ去っていく。
ショーも終盤に差しかかり、トレーナーから最後に大ジャンプを披露すると、場内アナウンスがあった。
「なんかあっという間だったよね。こんな楽しい時間をありがと、誠也」
天使の笑顔──誠也にはそう見えた。
とても演技とは思えないほどの笑顔。もしこれが演技であったのなら、アカデミー賞を受賞できるレベル。
偽りの恋人というのを一瞬忘れてしまうほど可愛かった。
周囲の声は雑音にしか聞こえず、誠也の瞳には瑞希しか映っていない。
ダメだ、騙されてはいけない、誠也が自分に言い聞かせ、冷静さを取り戻すと、目の前でイルカが大ジャンプを決めた。
大量の水しぶきが観客席へ乱入する。
その先に見える未来はただひとつ。
ずぶ濡れとなり天使の笑顔が消える未来。
刹那の時間で反応した誠也、瑞希を抱きしめるように水しぶきから体を張って守り抜いた。
「大丈夫? 濡れてない?」
「う、うん……。大丈夫、だよ、誠也が守ってくれたからどこも濡れてないよ……」
「なら良かった」
本当の恋人のように抱き合うふたり。
お互いの唇が触れそうになるくらいの近さ。
心拍数は当然跳ね上がり、瑞希の顔は真っ赤に染まっていた。
「あの、その……。そろそろ離れて欲しいんだけど」
「あっ、ご、ごめん」
「ううん、別にイヤというわけじゃなくて──って、誠也、びしょ濡れじゃないの」
「そうみたいだね。でも、瑞希が無事ならこれくらい平気だよ。服だってそのうち乾くだろうし」
──ドキッ。
瑞希の心に誠也の言葉が突き刺さる。
急にしおらしくなり、氷姫の仮面が剥がれ落ちた。
「ダメよ、そのままにしたら風邪引いちゃうじゃないの」
「瑞希は心配しすぎだって」
「これじゃ私が責任感じるじゃないの」
自分でもなぜそうしたのか分からなかった。
瑞希は誠也の後ろからそっと抱きしめ、自分の体温を分け与えようとする。心音は徐々に大きくなり、それは決してイヤな感覚ではない。
ふたりからは会話が失われ、瑞希はしばらくの間周りの目も気にせず抱きしめていた。
「も、もう大丈夫だから。そろそろ帰ろっか」
「……う、うん。絶対に風邪引いたらダメだからねっ。もし引いたら絶対に許さないんだからっ」
怒りながらもしっかり恋人繋ぎで水族館をあとにするふたり。
偽りのデートは無事に終わりを告げ、ふたりの心に何か大切なものを残した。