冴えない男子は学校一の美少女氷姫と恋人になる
「それに私、知ってるんですよ? 事情は誠也から聞きましたからね」
「なっ……」

 もちろん瑠香が本当のことを知るわけがない。
 瑞希に揺さぶりをかけようと、誠也の話を脚色しただけ。
 その言葉に悪意があるわけでもなく、瑠香は本当のことが知りたかった。

「ほ、他の人には言ったのかしら?」
「大丈夫ですよ、私だけしか知りませんから」
「お願い……お願いだから他言だけはしないで!」

 目の前にいるのが氷姫とは別人のような感じがした。
 必死で瑠香に泣すがる姿は今まで一度見たことがない。
 その姿に瑠香の中で罪悪感が湧き始め、瑞希を優しく包み込み慰めたのだ。

「だ、大丈夫ですから。そんな泣かないでくださいよ」
「ぐすん、だって、恋人関係が偽りだって知られたら、また告白地獄が待ってるんですもの」
「えっ、偽り……?」

 その答えは想定していなかった。
 誠也と瑞希の間に恋愛感情など一切なく、ただの虫除けくらいという事実。
 さすがに瑠香も驚きを隠せず、その場で固まってしまった。

「あ、あれ……? 誠也からそう聞いたのではないですの?」

 瑠香の時間を動かしたのは瑞希の言葉だった。

「えっとですね……。何か秘密があるくらいにしか聞いてなかったんです。ごめんなさいっ」
「い、いえ、早とちりした私が悪いのですから……」

 これで無事に解決──そのはずであった。瑠香の中である1つの疑問が浮かび上がるまでは。

 偽りの恋人ならキスくらいで動揺するものだろうか。
 わざわざ確認までするのは違和感を覚える。
 もしかしたら──瑠香は思ったままのことを質問した。

「あの、西園寺さんは誠也のことが好きではないんですよね?」
「えっ……。そ、それは、その……好きか嫌いかでいうと好き、ですわ。それ以上でもそれ以下でもありませんから……」

 瑞希本人にも、自分の気持ちがどこにあるのか分からなかった。
 嫌いではない──それなら好きということになるが、その好きはどの程度のものなのか。

 誠也が気になり始めているのは確か。
 しかしそれは恋に落ちたからなのだろうか。
 分からない、そんなこと分かるはずかない。なにせ瑞希は本当の恋をしたことがないのだから。

「そ、それじゃ話はこれで終わりですわ。前原さん、お付き合いいただきありがとうございますね」

 逃げるように屋上から去る瑞希。
 頭は誠也のことしかない。
 これから誠也とどんな顔して会えばいいのだろう──瑞希はそんなことを考えていた。
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