冴えない男子は学校一の美少女氷姫と恋人になる
「偽りの恋人とはいえ、僕は瑞希のこともう少し知りたいし。それに……朝言いかけてたことが気になるんだ」

 このタイミングで朝の出来事を持ち出すなんて反則レベル。
 思考回路がパンクしている状態では、まともな返事など出来るはずかない。
 言葉が生き物のように動き出し、瑞希の口から勝手に出てしまった。

「それね……。キスよ……。幼なじみとだけキスして、恋人である私とキスしてないなんて、おかしいでしょ! か、勘違いしないでね。偽りとはいえ、キスもしてないようじゃ、周りから疑われるからよ」
「えっ……」

 これにはさすがに誠也も驚きを隠せなかった。
 聞き間違い──一瞬そう思うも、脳裏に刻まれた記憶には確かにキスという言葉がある。

 本気で言っているのだろうか。
 これもさっきと同じで状態なのだろうか。
 誠也が答えを探し出していると──。

「今してよ。ねぇ、お願い、幼なじみだけじゃなくて、偽りでも恋人の私とキスしてよ」

 潤んだ瞳をゆっくり閉じ、瑞希は誠也からのキスを静かに待つ。
 もちろん、瑞希が言うキスとはアメリカ式のような頬っぺたにするもの。
 だがそれでも、恥ずかしいことには変わりがなかった。

「……分かったよ」

 覚悟を決めた誠也はゆっくりと顔を近づける。
 柔らかい──それが第一印象だった。甘くてまるでチョコレートのような感覚に襲われ、誠也の思考は完全に停止する。

「──!?」

 キスをして──確かにそうは言った。
 『どこに』というのを伝え忘れて。
 温かい感触は唇から伝わってき、瑞希は驚いて目を開ける。

 お互いの唇同士が重なっているのが瞳に映り込む。
 瑞希にとって初めてのキス。
 頬っぺたではなく唇──瑞希の思考は完全に停止し、再びその瞳をそっと閉じてしまった。
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