冴えない男子は学校一の美少女氷姫と恋人になる
「誠也……。アナタは一体何者なのよ。ただ女性に興味がないだけじゃないの?」

 気になりだしたら止まらない。
 誠也という男は、どういう性格でどんな趣味を持っているのだろう。
 妄想の世界で勝手に作り出し、色々なパターンを想像する。

 優しい人柄、断れない性格、自分のお願いを素直に聞いてくれる。
 そんな男が存在しているなど、瑞希が知るわけもない。誠也だけがそれを満たすのだから。

「やめよ、やめ。こんなこと考えても仕方がないじゃないの。所詮は偽りの恋人関係なんだし、深く考えるのはもうやめよ」

 頭の中を誠也が占有し始め、今までにない感情が芽生えようとする。
 そんなことは絶対に許せるはずがない。
 男嫌いで常に沈着冷静──それが瑞希という存在なのだ。

 誠也以外のことを考え気持ちを切り替えようとするも、どう頑張ったところで誠也がいなくなることはなかった。むしろ忘れようとすればするほど、誠也のことが頭の中で増えてしまう。

 もはや消すしかない。
 誠也とは偽りの恋人──そう決めつけ、瑞希は元の氷姫へと戻ろうとする。

「誠也はただの虫除けでしかないの。デートだってキスだって、すべては男を近寄らせないためにしたことなんですから」

 何度も頭の中で繰り返し自己暗示をかける。
 そうすれば必ずいつもの氷姫に戻れるはず。
 デートもキスもただの虫除け対策にすぎない。瑞希は気持ちを完全に切り替え、誠也と出会う以前の自分へと戻ろうとした。

 大丈夫、動揺なんてしていない。
 心も平静を保てている。
 明日からは氷姫として偽りの恋人を演じられる。瑞希の中で結論が出ると、安心したのか一気に全身の力が抜け落ちた。

「もう迷わないわ。誠也はただの虫除け、幼なじみとキスしていようが私には関係ない。言い訳ならいくらでも出来るし、何があっても平気なんですから」

 仮面をつけ完全に氷姫となる瑞希。
 明日からは心を乱されないはず。ただの虫除けだと、何度も自分に言い聞かせたのだから。

「えっ、どうして……。これはいったいどういうこと……?」

 すべてが元通りとなったのに、瞳からこぼれ落ちた雫が床を湿らせた。
 最初はそれが何か分からなかった。だけど、すぐにその正体が分かってしまう。

「涙……? 私、泣いているの? 誠也を虫除け扱いにしようとしただけで……」

 困惑する気持ちの中、瑞希は涙の意味を本能で知った。
 誠也のことは嫌いではない。むしろ一緒にいると安心し、心が乱されるも悪い気分ではない。どちらかというと好きに分類され、それはどの程度かと言うと──。

「そっか……。今ようやく分かったわ。私、いつの間にか誠也のことが大好きになってたんですね。他の男たちとは違う誠也が……」

 生まれて初めての恋。
 ようやく気づいた自分の本当の気持ち。
 瑞希の心は穏やかで心地いいものであった。
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