冴えない男子は学校一の美少女氷姫と恋人になる
「そういえば誠也に作るのって二度目かなっ。私の料理……気に入ってくれるかなぁ」

 普段から料理はしているものの、ひとりで作るのはは初めて。
 緊張するのは当たり前で、ましてや想い人となるとそのレベルが跳ね上がる。

 鼓動は心地よいリズムを奏でるも、不安という魔物が瑠香を闇に引きずり込む。
 負けてはダメ、ここが踏ん張りどころ。
 不安を振り払った瑠香は精一杯の気持ちを料理に込めた。

「味は──うん、これなら誠也も喜んでくれるはずだよっ」

 いつも通りでいい、特別なことをすれば絶対に失敗する。
 自分がどれだけ変わったのか、誠也に直接見てもらいたい。
 この料理でならきっと誠也が振り向いてくれるはず。

 そもそも自信満々なのには理由があり、それは常日頃から母親と一緒に料理をしているから。毎日コツコツと努力を惜しまず、その結果として料理の腕はかなり上達していた。

 すべては誠也のため、いつかお弁当くらいは作ってあげたいと、瑠香にとっては大きな夢がある。それが今やお弁当ではなく、手料理を直接振る舞えるチャンスが来たのだ。

 その嬉しさは計り知れないものであった。

「でも緊張するなぁ。誠也の喜ぶ顔が見たいけど、食べてもらうまでは不安だよ」

 頭の中では不安と期待がぶつかり合う。
 食べてもらいたい気持ちが大きいものの、口に合うかという不安も同じくらい大きい。

 ドキドキが止まらない──今すぐにこの場から逃げ出したい想いを抑え、瑠香は料理たちをテーブルに次々と並べていく。告白するよりはマシ、料理だけで想いを伝えられたらと思いながら……。

「ごめん、懐かしくて少し遅くなっちゃったよ」
「ひゃっ!? せ、誠也──」
「そんなに驚かなくても……」

 テーブルに頬杖ついて妄想の世界に浸っていたところで、いきなり誠也の声が聞こえたのだ。瑠香が悲鳴を上げて驚くのも無理はない。

 風呂前であるのに真っ赤になる瑠香の顔。
 体全体が急に火照りだし、頭上から煙が出そうなくらい。
 しかも、思考回路までもが火花を散らしながらショートしてしまう。

 考えられない、何も言葉が思い浮かばない。
 白一色に染まった頭のまま、瑠香はその場で固まっていた。

「瑠香……? 調子でも悪いの?」
「はひっ、だ、大丈夫でふ。私は全然平気だから……」

 思考回路が元に戻ったのは誠也からの心配の声。
 しかし今は、言葉を噛んでしまうほど動揺しており、誠也の顔すらまともに見ることが出来ない。

 これでは何も出来ないまま終わってしまう。
 それだけは避けなければならなく、瑠香はなけなしの勇気を奮い立たせる。

 せっかくのチャンス、いつまでも奥手ではダメ。
 誠也を好きな気持ちは誰よりもあるはず。
 苦手だろうと関係ない、瑠香は大きな一歩を踏み出し、昔の自分と決別しようと決めた。
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