冴えない男子は学校一の美少女氷姫と恋人になる
「よし、もう大丈夫だから。誠也のために私一生懸命作ったんだよ。だからさ、冷めないうちに食べようよ」
「ありがとう……」

 短期間で変わった瑠香が誠也を圧倒する。
 もう迷ったりしない── 固い決意がその場の空気を一瞬で変えた。

「味はどうかな……。お世辞じゃなくて、本当のこと言ってよね」
「う、うん……」

 自信はある。
 絶対にある。
 息を飲みながら瑠香は誠也からの返事を待った。

「美味しい……美味しいよ。前から思ってたけど、瑠香ってこんなにも料理が上手かったんだね」

 最高の褒め言葉を貰い、瑠香は満面の笑みを浮かべる。毎日コツコツ頑張った甲斐があった。努力とは報われるモノだと、心の中でガッツポーズを決めた。

 今日ほど嬉しい日はない。
 今日ほど幸せな日はない。
 今日ほど──誠也を身近に感じた日はなかった。

「ねぇ、なんかさ、これって夫婦みたいだよねっ」

 瑠香から放たれた意外な言葉は誠也を噎せさるほど。
 まるで生まれ変わったかのように、以前では口に出さない言葉が出る。

 爽快感というよりも、安心感と言った方が正しいのか。誠也の顔を見ているだけで幸福感に満たされる。苦手な恋愛に繋がる話を克服したようで、瑠香の顔は自信満々であった。
「な、何をいきなり言ってるんだよっ」
「ふふふふ、冗談だよ、冗談。誠也ったらすぐ本気にするんだからっ」
「いくら冗談とは言ってもビックリするじゃないか」
「そう? 私は──ううん、それより、食べ終わったら先にお風呂入ってね。それとも、私の残り湯を堪能したいかな?」

 瑠香の顔はどことなく小悪魔的で、完全に別人のような瑠香が誠也を困らせる。

「そ、そんなことないからっ。僕が先に入るよ」
「照れなくてもいいのに」

 心に余裕がある瑠香。
 気持ちが伝わったかなど、もうどうでもよく、夫婦のようなこの時間が最高に幸せだった。

 偽りの夫婦──同じ偽りでも恋人よりも上の存在。
 瑞希に勝った気がし、勝者の笑みを心の中で浮かべていた。

「──ご馳走様。それじゃ先に入らせてもらうね」
「うんっ。ゆっくり入らないとダメだからね」
「子どもじゃないんだから……」

 お風呂場へ向かう誠也の姿を、本当の嫁のような瞳で見つめる。
 視界から誠也が消えると瑠香は静かに立ち上がり、夕食の後片付けをしたのであった。
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