あなたの名前を【短編】
(……来たιι)
今日は中学のセーラー服のままパン屋に着ていたひみか。
お目当てはあの男性だった。
(せめて名前を……)
ひみかはパン屋のフロアにあの男を探すけど、あの男は今厨房で、お客からは見えない窓からひみかの様子を見ていた。
(中学生なんだ…)
ふぅん、と男は眼鏡を上げるとパンをこねる作業に取りかかった。
(今日はいないんだ)
ひみかはガックリ肩を落とすと、焼きたての食パンを買って帰っていった。
それからもひみかは毎日のようにパン屋に行き、あの男を見に行った。
あの男もまた、ひみかの姿を見ると喜びを感じていたのだ。
実は、ひみかが最初美味しそうに食べていた試食のパンは、男が提案して作ったパンだったのだ。