あなたの名前を【短編】
ゆっくり振り向くと、山本は「ちょっと」とひみかを店の中に招き入れて、フロアも過ぎてスタッフルームに入らせた。
「……?」
「ごめんね、ずぶ濡れじゃあ風邪ひいちゃうだろうなと思って」
山本の優しさがヒシヒシとひみかの胸に伝わって、好きの気持ちが溢れそうになった。
山本は白いタオルケットをひみかに渡すと、優しくニッコリ笑って、袋に入れたパンを見せた。
「これ、渡そうと思ってたって言うのも、ここに呼んだ理由かな」
美味しそうなクロワッサン。
ひみかは嬉しそうにせのパンを受けとると、袋をあけて頬張った。
タオルにグルグル巻きになったひみかに、山本は食い入るように感想を待つと、笑顔のひみかが
「美味しい」
と、綻んだ。