今はまだ、折れた翼でも
—————なのに、いつまで経っても身体のどこにも痛みはこない。


おかしい、そう思って怖くて震えるまぶたをおそるおそる持ち上げる。

すると、拳は目の前で止まっていた。いや、止められていた。


……傷だらけの、大きな手によって。



「…………映茉に指一本でも触れたら、死んでも俺が許さない」



聞きなれているはずなのに、いつもよりずっと低い声。

つ、と右目から、溢れないようにと溜めていた涙が零れ落ちた。



「は、なんだよお前。それでカッコつけてるつもりかよ。死ぬ間際のお前に去勢されるほど、俺は弱くないんですけど」



そう言う表情からはもうさっきの余裕の笑みはなかった。

すると、拳を下ろして望くんの胸倉を掴んだ。



「……っ!」



声にならない音が、夏の空気をかすめる。

望くんも手を下ろすけど、うつむいたまま抵抗しない。


もう、やめてほしい。これ以上、傷ついてほしくないよ。誰にも。



「お前のそのスカした態度。それが一番気に入らねーんだよ!」



さっきと同じ拳が望くんのお腹めがけて握られる。

このままじゃ、結局望くんのことを守れない。


体当たりでもすれば止まるだろうか。いや、するじゃない。やるんだ。

そう思ったとき。


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