今はまだ、折れた翼でも
その日の夜、映茉が熱を出した。

本人はテスト疲れだと言っていたが、原因は俺にもあるだろう。


午後10時頃、俺は映茉の部屋に熱さましのシートと市販の解熱剤と水を持って行った。

ノックをすると、「はあい」と映茉の弱った声がする。

ドアを開けると部屋に熱がこもっていると感じ、テーブルに持ってきたものを置いてから断りを入れて窓を開けて喚起をする。



「寒くねえか」

「うん。大丈夫だよ。ありがとう」



にこっと微笑んでお礼を言う姿が辛そうで、こんなときくらい無理しなくていいのにと思う。

出会ったときから、映茉はよく笑っていた。

例えるなら、寒くて、植物すら育たない場所に差すひとすじの太陽の光みたいにふんわりと暖かい。

俺は映茉のそんな笑顔が、好きだ。


映茉のことは心配だが、明日もテストの続きがあるので学校に行かなければならない。



学校に行かなくなって二か月がたった5月下旬、担任からの電話で留年の可能性を告げられたことがある。

そのときは別に留年してもいいと思っていた。高校を卒業するつもりはなくて、ある程度生きるのに飽きたら死ぬつもりだったから。

だが今は、留年はしたくない。ちゃんと進級したい。

選択肢にもう“死ぬ”なんて言葉は、ない。


< 121 / 198 >

この作品をシェア

pagetop