今はまだ、折れた翼でも
竹林さんがもし望くんを探していたのだとしたら、片っ端から声をかけているはず。なのに、私が知り合いかと聞かれて一度黙ってしまったとき、帰ろうとしていた。

だから、すでに竹林さんは私を知っていたことになるけど。一度も会ったことないのに、そんなことあるのかな。



「ちょうど一か月前に、ここのあたりで治谷祭りがありましたよね。僕は隣の市に住んでいるんですけど、たまたま来ていて。そこで、望と……鳥越さんを見かけたんです」



治谷祭りといえば、あのとき私は迷子になって、望くんに迷惑をかけちゃって……。

でもその前もその後も、望くんと二人で回っていたから見かけていても不思議じゃないよね。人も多かったし。



「望のことはわかったんですけど、隣にいる女性は見たことがなくて。僕、人の顔を覚えるのが得意なので」



“人の顔を覚えるのが得意”って言っても、私の顔なんて特別可愛いわけでも華やかで美人なわけでもないし、なんなら人に覚えてもらえなさそうな地味な顔なのに。

でも、それなら私のことを知っていても納得出来る気がする。
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