今はまだ、折れた翼でも
16 誰でもない俺は side望
俺、白岩望は治谷市の隣にある藤咲市の小さなアパートで生まれた。

父さんと母さんの間に。

生まれたときにはすでに、俺には兄がいた。


名前は、白岩翼。俺とは二歳差で、名前の通りまるで翼が生えているみたいに元気で明るい性格。

俺が生まれてから一年半後、弟が生まれた。“望”にちなんでつけられた名前は、“流星”。


「流れ星に望んでそれでも叶わないのなら、翼をはためかせていけばいい」。


よく、母親が言っていたその言葉のように、俺と流星は弟として翼を頼りにしていた。




「ほんと、白岩さんちの三兄弟は仲がいいわね」



近所では、名物みたいにいつもそう言われる。



「三人とも!お菓子あげるっ」



近所の人たちは良くしてくれて、可愛がってもらえた。

それぞれ小一、年中、年少の手のひらに小さな袋に入ったチョコレートが乗せられる。



「ありがとー!おばさんっ!」

「……ありがとう、ございます」

「ありがとうございます」



人としゃべるのが苦手なせいで、家族以外の人とは目が合わせられない。

正反対に誰とでも仲良くなれる翼は、内気な性格の俺にとってあこがれの存在だった。

幼稚園を卒業するまで、俺はよく翼のあとをついていった。翼は眉の端を下げて「しょうがないなー」って言いながら笑っていて。

その笑顔が俺は、好きだった。


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