今はまだ、折れた翼でも
そのあとのことは、あんまり記憶にない。

スマホが鳴って、家に連れ戻されて。

すでに帰っていた父さんと母さん、流星で翼が運ばれたという病院へ向かった。


運ばれたのは市外の大きな病院で、大城病院というところ。

そこで医師から告げられたのは、『翼の意識はかなりの確率で戻らない』ということだった。

一番動揺していたのは、母だった。



「翼!私の翼は帰ってこないのっ!?ねえ、なんで!なんでよっ!!」



そう叫んで、医師の胸ぐらを掴んだのを流星が必死にはがす。

父さんが母さんのことをなだめる。

俺は目の前で繰り広げられる光景を、ただぼーっと見つめていた。


頭に包帯を巻いて、白いベッドで眠る翼の姿が脳裏に焼き付けられるのを感じながら。



俺たちは、父さんから明後日から学校に行くように言われた。父さんもその日から会社に行くから、と。

翼が事故にあった日から自分の部屋に閉じこもって母さんは出てこなくなった。


でも、例えば俺や流星が事故にあって翼と同じ状況になっても、母さんはここまで落ち込まなかったんじゃないかと思う。

母さんが一番に溺愛していたのは翼だと、手に取るように分かるから。


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