今はまだ、折れた翼でも
あの日から、自分の思い通りにいかないと母親は俺たちに暴力を振るうようになった。

いや、物理的じゃない。

言葉の暴力。


浴びせられているときは、極力何も考えないようにしている。

ただ一点を見つめていれば、痛みは軽くない。

俺は中三で幼くない。力も母親よりはあるだろう。

それを分かっているから、手をあげたりはされなかった。


母親は、なぜか大量の本や参考書を買ってくる。



『あなたのために買ってきたの。ね、望』



そうして、俺に突き出してくる。渡されるのはいつも高校の内容のものばかりで、もったいないからと勉強の合間に解いていた。


母親は、今ここにいる、自分の手元にいる『翼』にしか興味がない。

病院で眠っている本物の『翼』には、興味がない。

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