今はまだ、折れた翼でも
ずっと前に、母親が言っていた。



『一番手がかかるのは、翼なのよ。元気だからか、いつもなにかやらかしてくるの。私が居なきゃだめなのよ』



翼はお前の恋人じゃない、息子だよって初めて聞いたときは思った。

でも、今考えると少し違う。

一番手のかかる翼を育てている私は立派だって、思いたかっただけ。


結局は、自己満足の愛だったんだ。母親から翼に向けられていたのは。

だから、動かなくて面倒を見る必要のない翼はどうでもいい。


そんな母親のことを知ってか知らずか、9月の下旬あたりに父さんが離婚したいと言い出した。

別に驚きはしなかった。仕事をせず金ばかり使う母親のせいで家計は火の車だったし、いずれはそうなるんだろうなって思っていたから。

そのとき、離婚したら翼がどうなるのかを誰も口にしなかった。

でも父さんもこんな状況で大変だっただろうし。とにかく耐えられなかったのだろう。
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