今はまだ、折れた翼でも
離婚すると告げられたとき、俺は当然父さんについていくつもりだった。

あんな女のところにはいられない。精神が削られていくだけだと思ったから。

だけど、父さんはこう言った。



「望は、母さんのところに居てあげなさい。母さんが、不安がるだろう」



なんでだよ、って思った。

この女の近くにいて、なにもいいことなんてない。

日々『翼』であることを求められて、精神的に追いやられて。


自分が自分じゃなくなっていく感覚なんて味わいたくない。

この人は、一人で本物の『翼』が戻ってくるまで待っていればいい。


なのに、とうとうその思いは届かずあっけなく離婚は成立してしまった。

母親が拒否すると思っていたが、そんなことはなかったのだ。


もう、諦めてしまおう。

俺が、俺自身でいることを。

とっととそうしていればよかった。


『翼』になれば、早く楽になれるかもしれない。


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