今はまだ、折れた翼でも
両腕が晒されてさっきよりも涼しくなる。脱いだカーディガンを前へ持ってくると、望くんに「映茉」と呼ばれた。



「え?」

「そのカーディガン、貸して」

「あ、うん……」



なんだろうと思い、言われるがままに淡いクリーム色のカーディガンを渡す。

するとそれは手元で大きく広げられ、私の頭の後ろへ顔まで覆うようにかぶせられる。

でもまだ手には、カーディガンの端が握られたまま。



「の、望くん?」



私が名前を呼んだ瞬間、とつぜん目の前が真っ暗になった。

そしてくちびるに、なにか柔らかいものが当たる感覚がする。

瞬きしたときには、望くんの顔がすぐ近くにあって。


一瞬の出来事で、理解が追いつかない。

今、私……。



「……やっば、ごめん。絶対順番、間違えた」


「……えっ」



視界が明るくなって分かる。望くんの顔が、ほんのり赤い。

私は確認するように、口元へ右手を持っていく。

どうしよう。頬だけじゃなくて、体中が熱い。でもこれは絶対、風邪のせいじゃない。



「映茉」

「あえっ、はいっ」


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