今はまだ、折れた翼でも
「……そうか。望がそうしたいなら別に。俺が口出すことじゃないし」


「……映茉にさ、家族のことやいままでのこと、言わなきゃなって思ってた。なら、ちゃんと母さんと会って話し合いをしてからのほうがいいんじゃねぇのかって。俺の過去に一区切りつけるみたいに。……でもさ、別に一区切りなんてつけなくたってそのままの過去がある俺を、映茉は受け止めてくれるんじゃないかとも思った。俺の、かっこ悪いところも。

……そもそも母さんの意思で家は出ていったわけだし。まあ俺のせいもあるだろうけど。でも、それでむしろ追いかけるのは迷惑な気がしてる。母さんに対しての“申し訳ない”って気持ちはあるけど、わざわざ伝えにいくのは、それこそ申し訳ないって思ってるから」




望くんが、私のことをそんなふうに思ってくれていたなんて、知らなかった。

私のほうが、望くんに救われてるよ。ありのままの自分でいいって思えたのは、こんな私にも優しく接してくれた望くんの存在があるから。


ドアの前に立っていることも忘れ、ぽろぽろと涙がこぼれた。

でも、これは悲しい涙じゃなくて。

胸が暖かくなったときに出る、涙だった。




「……望。今の話、本人にも直接伝えろよ。そうじゃないと意味ないだろ」

「……分かってる」



私は落ち着いてから、ゆっくりと部屋に戻った。




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