今はまだ、折れた翼でも
藤咲駅の看板が見えてきた。

ここが俺の家のある町、藤咲市。


田舎の駅舎なんて人がいないことも多いが、今は通勤通学時間で人は割と多い。

駅内の時計の針は、7時55分を指していた。

中を通って反対側の方から駅を出る。


駅なのに店は少ないし、外にもなにかあるかと言われれば特にない。

俺は昔から、そういう町で育ったんだ。

目まぐるしく変わる世界に、寂しく取り残されてしまったようなこの場所で。



「たい焼き〜、たい焼き〜。おいし~いたい焼きだよ~」



遠くからたい焼き屋の声が聞こえる。

木が風でざわざわと音を立てて揺れ、昇ってきたきた太陽の光がその葉の隙間から差してくる。

駅から目的地までは歩いて15分ほどだ。そんなにはかからない。


すれ違うのは、制服を着た学生やスーツを着た社会人。ランドセルを背負った小学生が集団で歩いているのも見かけた。



「ねえ、もうすぐ夏休みだね~」

「ちょ、気が早いよ~!」




ふと、真横を通った女子高生二人の会話が耳に入る。

とても楽しそうに笑って話していた。


俺も、こうやって楽しく登下校できていたはずだろうか。学校生活を、送れていたのだろうか。でも、俺は自らその道を選ばなかった。

代償はつきものだ。仕方ない。


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