今はまだ、折れた翼でも
あれ、今なにかお母さん言ったような。

返事をしておきながら首をかしげていると、お母さんは少しびっくりしたように目を丸くさせた。



「……お祭り、ですか」



数秒経ってから、確認するように白岩くんがつぶやいた。

お祭りって、あたっけ。そんなもの。



「あら、映茉ちゃんまさか忘れてたの?治谷祭りのこと」

「えっと、……あ、あれ今日?」



そこまで聞いて、やっと思い出した。

ここ、治谷市では毎年6月と8月に一回ずつお祭りが開催されている。交通規制がかかってたくさんの人が集まるお祭りで、いわゆる歩行者天国というもの。


8月は普通のお祭りのような屋台が並ぶんだけど、6月にあるほうのお祭りは、芸術作品メインで屋台が並ぶ。

手作りのお菓子や料理。美術作品などいろいろ。自分の作ったものならなんでも展示、出品してもよいということになっている。


私自身毎年楽しみにしている催しだ。



「もう掃除終わったんでしょう?それなら二人で今から支度していってくればいいんじゃないかしら」



提案したとなれば、思い通りにするまで絶対意見を曲げないのがお母さんだ。

私はちょっと待ってください状態なのだけれど、そんなことお構いなしに私たちに向かってウインクをした。


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