今はまだ、折れた翼でも
見上げてみれば、いつもと変わらない表情の白岩くんがいた。



「大丈夫か。ぼーっとしてたけど」

「え、あ、私、ぼーっとしてたかな?」

「ああ。俺の声、聞こえてねぇくらい」



私がぼーっとしてしまっていたという白岩くんの話は、きっと本当なのだろう。

だけど、私がなんで白岩くんの声が耳に入らないくらい考え込んでいたのかって言われると、分からない。



「それは……ごめんなさい」

「謝んなくても大丈夫だから。……じゃあ、行くか」



今のことは気にしていないみたいにさらっと流される。

白岩くんが歩き出すと、私も引っ張られるように歩く。


そこで、ようやくさっきの違和感の正体に気が付いた。

あのとき、私は白岩くんに左手首を掴まれたんだ。

それは離されることなく、今も掴まれたままになっている。


あとで白岩くんに確かめたいことを思いながら、私は歩いた。

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